大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

秋田地方裁判所 平成7年(行ウ)1号 判決

原告

原田悦子

右訴訟代理人弁護士

虻川高範

右同

菊地修

被告

秋田県知事 佐々木喜久治

右訴訟代理人弁護士

加藤堯

右同

木元愼一

右指定代理人

加賀谷繁

右同

川越重政

右同

斉藤英晴

事実及び理由

第三 争点に対する判断

一  争点1について(本件非公開部分は個人に関する情報か否か)

1  〔証拠略〕によれば、本件同意書の氏名等欄には、個人の住所、氏名及び印影のみが表示されていることが認められるから、これが法人等の意思の表示としてなされたなどの特段の事情がない限り、右部分は「個人に関する情報」であり、かつ、特定の個人が識別されるもの」に該当する。

2  次に右特段の事情の主張と位置付けられる原告の主張を検討する。

(一)  本件同意書は、実施要綱第二条の規定に従って(乙二)、本件林地開発許可申請書の添付書類として提出され、受理されたものであるところ、右実施要綱は林地開発許可の取扱について厳正かつ円滑な実施を図る趣旨から定められたものであり、かつ、林地開発許可制度における不許可事由としての法一〇条の二第二項二号が規定する「当該開発行為をする森林の現に有する水源のかん養の機能からみて、当該開発行為により当該機能に依存する地域における水の確保に著しい支障を及ぼすおそれがあること。」との趣旨に照らせば、本件同意書は、右不許可事由に関する適否判定の資料の一つであり、林地開発による水量の変動に利害関係を有する者の意思を忖度するものである。

しかしながら、本件同意書は、法が要求する文書ではなく、また、右不許可事由の判断は公益的観点から客観的に判断されるべき性質のものであるから、必要不可欠な絶対的添付資料ではないと言うべきであり、さらに右実施要綱には、「水利権者」の対象範囲が規定されていない。

そして、本件林地開発許可申請のような開発行為の場合に、必ず周辺ないし下流の土地改良区の同意書が必要とされていたとの行政の慣行は、これを認めるに足りる証拠がない。

(二)  原告は、非公開理由説明書に対する意見書(甲四)や本件非公開決定に対する異議申立て書(甲三)において、「事業者が浅内土地改良区の了解を得て農業用水路に雨水並びに処理水等を放流している事実を認める発言もあり、同意書中の同意者は、これら会員並びに組合員の理事会等の承認を得た意志統一後の同意書と思われます。」と説明したり、原告本人尋問において、「平成三年一月、同年一二月及び平成四年五月に、実際、水を流して、私の家の田圃にも大変迷惑を受けたんですが、そのときに、産廃センターの社長が田圃にいる私のほうに来まして、浅内土地改良区から、水を流していいという水利権者の同意書をもらってあるので、水を流すことについては問題がないと、こういうふうなお話をされておりました。」旨を供述しているが、本件林地開発による水量の変動に利害関係を有する者は、浅内土地改良区会員のほかに、周辺営農家の地権者、浅内水利組合組合員地もいること(〔証拠略〕)、及び本件同意書が必要不可欠な絶対的添付資料ではないなどの前記(一)の事情に照らすと、右供述等から、本件林地開発許可申請者である能代産廃センターが浅内土地改良区など水利権を有する団体の意思の表示として本件同意書を取得したり、本件同意書を右団体の意思を表示する文書として被告に提出し、かつ、被告において、これを右団体の意思を表示する文書として受理したとの事実は、これを推認することはできず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。

(三)  以上によれば、本件同意書は、林地開発による水量の変動に利害関係を有する者が個人の立場で能代産廃センターに対して本件林地開発に同意する意思を表明した文書であるとの限度でしか認定しようがなく、したがって、本件非公開部分は「個人に関する情報」であり、本条例六条一項一号本文が適用となる。

二  争点2について(本件非公開部分を公開すべき公益上の必要があるか。)

1  本件同意書は、法令の規定による許可に際して実施機関が取得した情報であるから、公開することが公益上必要と認められるものであれば、本条例六条一項一号ただし書(三)に該当し、公開しなければならない。

個人に関する情報を非公開とする理由は、「プライバシー」を包含するこれら情報がいったん公開されると、当該個人に対して回復し難い損害を与えることがあることから、個人の思想、価値観の如何を問わず、個人の尊厳及び基本的人権尊重の観点から最大限保護されるよう配慮したものと解せられるが、本条例六条一項一号ただし書(三)は、法令等の規定により行われる許可、認可、免許、決定その他これに類する行政行為及び法令等の規定に基づく届出、申告、報告、申出その他の手続きの中には、その性質上県民生活に影響を及ぼすものがあり、したがって、これら行為に際して県が作成し、又は県民等から提出された情報であって、県民の生命、身体等を保護し、公共の安全を確保する観点から、公益上公開すべき積極的理由が強いものについては、公開することとしたものである(乙一)。

2  右に述べた観点から、以下、検討する。

(一)  原告が主張するところの「公益上の必要」は、本件非公開部分が団体と無関係の個人情報であるとするならば、これを公関することにより、本件林地開発許可申請の違法及び当該許可の違法が判明し、許可の取消等のしかるべき行政処分につながり、このような違法な行政の是正が「公益上の必要」に該当するとの見解と理解できる。

そして、林地開発は、森林の減少に伴う災害の発生や水利用への支障その他環境への影響等によって、近隣住民や水利権者にとって重要な利害を生ずる場合があるから、林地開発に関する行政手続きの適正を監現するために関係文書を公開をすることは、一般的には、公益性が否定できない。

(二)  しかしながら、本件同意書は法が要求する文書ではなく、本件林地開発許可申請に必要不可欠な絶対的添付資料ではないことなどは、前記一2(一)のとおりであるうえ、林地開発許可は、周辺の水源の涵養、災害防止その他の環境保全といった公益的観点から総合的考察により行われる許可処分であり、さらに、本件林地開発許可がなされてから現在まで既に七年六月以上の年月が経過している。

右の諸点に照らすと、本件非公開部分を原告に公開することによって、許可の取消等による違法な行政の是正が生じる蓋然性は高いものとは言えず、それゆえ、県民の生命、身体等を守り、公共の安全を図るという公益が充足されないまま、本件林地開発許可をめぐる原告と被告及び能代産廃センターとの間の対立、反目の中で本件同意書を作成した個人のプライバシーが犠性になる危険が少なくないものと考える。

右のように予想される状況下において、最大限保護されるべき「個人に関する情報」である本件非公開部分を公開すべき「公益上の必要」があるものとは認められない。

三  以上の次第で、本件非公開部分は、非公開基準の本条例六条一項一号本文の「個人に関する情報」及び「特定の個人が識別されるもの」に該当し、除外事由としての同条一項一号ただし書(三)にも該当しないものと認められる(同条一項一号ただし書(一)及び(二)に該当しないことは、争いがない)。

したがって、本件非公開決定は適法であり、これを違法とする原告の本件請求は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 片瀬敏寿 裁判官 坂本宗一 山下英久)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!